前回の記事で、あなたは錆を完全に根絶し、地金がしっかりと見える状態にまで研磨を終えました。おめでとうございます!これはDIY錆取りの最も大変で重要な工程を乗り越えたことを意味します。しかし、ここで満足してはいけません。今回のステップ4は、その後の塗装が「プロ級の仕上がりになるか、それとも素人っぽく見えるか」を決定づける、非常に繊細で重要な工程です。
地金が出てきた面は、粗いサンドペーパーでできた無数の深い傷が残っています。このまま塗装をすると、これらの傷が塗膜に浮き上がってきてしまい、ザラザラとした見た目になってしまいます。そこで必要になるのが、サンドペーパーの番手を徐々に上げていき、表面を鏡のように滑らかに仕上げる「最終研磨」です。この記事では、サンドペーパーの正しい選び方から、番手ごとの研磨のコツまで、塗装のプロが実践するテクニックを余すことなくお伝えします。それでは、美しい仕上がりに向けた最後の研磨を始めましょう。
なぜ最終研磨が仕上がりを左右するのか?
最終研磨を怠ると、どんなに高価な塗料を使っても、どんなに塗装の技術が高くても、決して美しい仕上がりにはなりません。その理由は、塗装というものが、下地の状態をそのまま反映してしまうからです。
1. 塗膜の厚さの限界
車の塗膜は非常に薄く、通常は100ミクロン(0.1mm)程度しかありません。これは人間の髪の毛1本分くらいの薄さです。粗いサンドペーパーでできた0.1mm以上の深い傷は、その上から塗装をしても埋まりきらず、そのまま塗膜に凹凸として残ってしまいます。そのため、深い傷を完全に消し去ることが、滑らかな表面を作り出すために不可欠なのです。
2. 塗料の密着性向上
細目のサンドペーパーで研磨した面は、微細な凹凸が形成されま6す。この凹凸が、次に塗るプライマーや塗料がしっかりと食い込むための「足付け」となり、密着性を高めます。逆に、研磨が不十分で表面がザラザラしていると、塗料が均一に付着せず、剥がれやひび割れの原因になることがあります。
最終研磨は、単に見た目を良くするためだけではなく、塗装の耐久性を高めるためにも非常に重要な作業なのです。
サンドペーパーの番手別研磨テクニック
最終研磨は、番手の異なるサンドペーパーを段階的に使っていくのが基本です。いきなり細目のサンドペーパーを使うと、粗目でできた傷を消すのに膨大な時間がかかってしまいます。適切な番手選びと、正しい研磨方法を身につけましょう。
ステップ1:中目での研磨(#320~#400)
まず、地金が出た部分に残っている、粗いサンドペーパー(#120~#240)でついた深い傷を消していきます。使用するのは、**中目のサンドペーパー(#320~#400)**です。この工程でも、水に濡らしながら研磨する「水研ぎ」が効果的です。水研ぎは、削りカスが舞い上がらず、サンドペーパーの目詰まりを防ぎ、効率的な研磨を可能にします。
この段階では、力を入れすぎず、広い範囲を優しく研磨します。前の工程でできた傷が完全に消え、全体が均一な曇りガラスのような状態になるまで、丁寧に作業を続けましょう。指で触ってみて、ザラザラした感触がなくなったら次のステップに進みます。
ステップ2:細目での最終仕上げ(#600~#1000)
いよいよ仕上げです。使用するのは、**細目のサンドペーパー(#600~#1000)**です。この番手で研磨することで、さらに微細な傷を消し、塗装に最適な滑らかな表面を作り出します。この工程も、必ず水研ぎで行います。
力をほとんど入れずに、サンドペーパーの重みだけで研磨するイメージです。研磨している面を指で触り、まるでガラスのようにツルツルした感触になったら研磨完了の合図です。この段階で、地金の面と元の塗装面の段差をなくすように、境目を滑らかに研磨しておくことも重要です。段差が残っていると、塗装後に線として浮き上がってしまうため、境目をぼかすように研磨します。
【裏技】空研ぎと水研ぎの使い分け
一般的に、荒削りは電動工具と空研ぎ、最終仕上げは手動と水研ぎが推奨されます。しかし、水研ぎは乾きにくく、作業後の錆再発リスクが高まることも事実です。プロは、水研ぎで研磨した後に、しっかりとエアブローで水分を飛ばし、ドライヤーで完全に乾燥させるという手間を惜しみません。DIYで作業する際は、天候の良い日に、風通しの良い場所で作業し、水分が完全に乾いたことを確認してから次の工程に進むことが重要です。
最終研磨で起こりがちな失敗と対策
失敗1:研磨が足りず、塗装後に傷が浮き上がる
最も多い失敗です。見た目は滑らかに見えても、実際には小さな傷が残っていることがあります。対策としては、研磨作業中に水で濡らした面を、一度完全に乾かして確認することです。乾いた状態で見ると、小さな傷や凹凸がはっきり見えます。少しでも気になる部分があれば、番手を戻して再度研磨しましょう。
失敗2:力を入れすぎて、地金が薄くなる
特に電動工具を使用した場合に起こりやすい失敗です。力を入れすぎると、鉄板が凹んだり、最悪の場合、穴が空いてしまうこともあります。対策としては、無理な力を加えず、サンドペーパーや工具の重みを利用して優しく研磨すること。特に細目での研磨は、ほとんど力を入れずに、撫でるように行うのがコツです。
この最終研磨を完璧にこなせば、あなたは美しい塗装への準備が整いました。あなたの愛車は、今、新しい命を吹き込まれる直前の、最も美しい状態にあります。次の記事では、いよいよ錆の再発を徹底的に防ぐための「脱脂とプライマー・錆転換剤の塗布」について解説します。もう一踏ん張りです。頑張りましょう!